失敗談

神経内科医のバーンアウト

ataruminami

先日YouTubeをみていたら、「医師YouTuber いっさ」先生という方が「発展性の高い専攻科 3選!」ということで動画をアップされていました。

その中で私の専門である「神経内科」も「発展性の高い専攻科」の1つに取り上げて頂きました。他科の先生から自分の診療科をご評価くださるのは非常に光栄なことであり、大変嬉しく思います。

若い先生や学生さんには、将来神経内科を志している方もおられると思います。ただ、神経内科医である私としては「リアルな神経内科(負の側面)」を知っておられた方が、将来のためになると思っています。

実は昨年、私は神経内科医をバーンアウトしてしまいました。なので、現在は神経内科から距離を置きながら生活しています。

神経内科学会では既にに2021年に以下の報告が学会誌にも報告されています。

こちらの報告では神経内科医のバーンアウトの原因について分析し、いかにしてバーンアウトさせないかについて検討しています。

バーンアウトした神経内科医から言わせてもらうと、「神経内科医は本当にキツイ」この一言に尽きます。本日は「神経内科医が本当にきつい理由」について赤裸々に記そうと思います。

神経内科医が本当にきつい理由①:急性期から慢性期までの幅広い診療

急性期病院にいると、神経内科医は急性期〜慢性期の患者をずっと診療しなければなりません。例をあげると以下の通りです。

(超急性期〜急性期)脳梗塞、髄膜炎、脳炎、てんかん
(急性期〜亜急性期)重症筋無力症、ギランバレー症候群、多発性硬化症、視神経脊髄炎
(亜急性期〜慢性期)パーキンソン病、ALS、神経変性疾患、慢性炎症性脱髄性多発神経根炎
ここに挙げた疾患以外にもまだまだたくさんあります!

このように、超急性期〜慢性期にかけて様々なタイプの疾患を対応しなければなりません。これが精神的にきつかったです。「急性期だけ」とか「慢性期だけ」なら良いのですが…

神経内科医が本当にきつい理由②:「謎の意識障害」はだいたい神経内科へ

これは市中病院にありがちなのですが、「謎の意識障害」はだいたい神経内科へ相談がきます。そして蓋を開けてみると、内分泌異常とか精神疾患という、これまた神経内科とは関連ない疾患で、当該科へ改めて相談するパターンが多いです。

正直私としては、「AIUEOTIPSで十分鑑別してからにしてほしい」と思います。特に内科系の診療科の先生方には、心からお願いしたいです。

神経内科医が本当にきつい理由③:求められる患者様・ご家族への細やかな対応

神経内科へ来られる方は本当に困って来られる方が多いです。そして、治療がうまくいっても軽度障がい、治療がうまくいかなければ高度障害に陥る場合も多いです。

先ほどのように急性期から慢性期まで幅広い疾患の対応をしなければならない状況下でも、十分に時間をとり患者様やご家族へ細やかな対応(十分な説明や支持的に接すること)が必要になります。

時には急性期疾患に対して刻一刻と判断をし仕事をしながら、一方ではきめ細かい対応を行う。これを行っていると、当然ですが、仕事中に休む暇がありません。

神経内科医が本当にきつい理由④:急変が多い

上記に挙げた疾患の多くは「再発」や「再増悪」をします。

例を挙げれば脳梗塞。これは当然ですが再発します。また多発性硬化症、視神経脊髄炎といった中枢神経系に生じる炎症性疾患。これも再発します。

また、ALSやパーキンソン病といった神経変性疾患の方は、誤嚥性肺炎を起こしたり、窒息したりすることで急変する場合があります。

なので、「院内のハリーコールが鳴ったので駆けつけてみたら、自分の患者だった」というのは、意外と神経内科医にありがちです。

神経内科医が本当にきつい理由⑤:患者が治らない

これは神経内科の宿命ですね。疾患によっては、病状が良くなっていく患者様もたくさんいらっしゃいます。ただ、神経内科で担当する多くの疾患は、長い目で見ると「横ばい」か「緩徐に悪くなる」経過を辿ってしまいます。

これは正直、診療をしている私としても辛かったです。「あの方法はないか、この方法はないか」と色々と調べて、お薬等を患者様に試すんですけど、やはり悪くなる方がおられるんですよね。これは正直、診療している私としても辛かったです。

医師の仕事において、表現は悪いのですが「やってやった感」は大事だと思います。これは決して患者様には言わないのですが、例えばお休みの日のオンコール(当番日)に呼び出しがあって、急患対応しますよね。その時に「今日自分は休みが潰れてしまったけど、1人助けることができた!やってやった!!」を思うことができれば、まだいい気持ちで病院から帰れると思います。

しかし、神経内科は急患対応が多い割に、この「やってやった感」がないです。オンコールの呼び出しに応じて、休日に病院へ行き治療をしても、劇的に良くなることは少なく、むしろ「病状がさらに悪化しないかな」とか「合併症大丈夫かな」とか心配しながら帰途につく場合がほとんどです。

神経内科医が本当にきつい理由⑥:神経内科に従事する医師が少ない!

都市部は徐々に改善されて来つつあるかもしれませんが、地方に行くと神経内科に従事する医師はまだまだ少ないのが私の実感です。地方の急性期病院へ行くと、自分の引き受けないといけない患者様が増え、「中核都市の急性期病院なのに、主治医をしている入院患者数が20人!?」みたいな現象が生じることがあります。

そして、神経内科に従事する医師が少ないために、オンコールを少ない人数で回すことになります。

先ほどの「謎の意識障害」でも書きましたが、だいたい救急疾患は「意識障害」を伴うことが多く、オンコールで神経内科が呼ばれる確率も高いです。となるとオンコールの日に何回も呼び出され、常勤日と変わらないくらい働くことになりがちです。

神経内科医が本当にきつい理由⑦:最後は…自分・家族との時間がなくなる

上記の環境の中、働き続けているとどうなるか。そうです。自分や家族の時間がなくなってしまうんですよね。家族や自分の時間がなくなり、ひいては急変等で夜も叩き起こされる有様。こうなると、一瞬たりとも携帯電話を離すことができなくなり、眠りも浅くなってしまいます。

以上が私が考える、「神経内科医がきつい理由」になります。

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余談ですが、神経内科医は保険医のレセプト業務が多いのもきついです。神経内科の扱う疾患はリハビリが必要になるのですが、急性期病院でリハビリテーションを導入すると、点数が高額となり、症状詳記を書かされます。これが非常に面倒臭い。これも神経内科医の仕事を煩雑にしています。

このような生活をしていた私は、最後はどうなったかというと・・・

ある日、急患を受けないといけない状況頭の中で張り詰めていた糸が「ぷつん」と切れたような感覚に陥り、その瞬間「あ。もういいや。もう医者やめよう。」となってしまいました。

そこから紆余曲折あり、一応医者だけは続けていますが(笑)。

独身で、臨床医をひたすら極めたいのなら、神経内科は良いかもしれません。良い意味でも悪い意味でも非常に泥臭く、内科医らしい仕事ができると思います。

ただ「慢性疾患を、長い時間軸で診療したい」という観点で神経内科を選ばれることはお勧めしません。私はそのような感覚で神経内科を選んでしまいました。

では「慢性疾患を、長い時間軸で診療したい」は場合はどうすれば良いか?

今の私であれば、リハビリテーション科を選択すると思います。

神経内科のバーンアウト対策を神経学会は述べていましたが、むしろ神経内科医のリソースを限られた地域に集中させて、救命救急科のようにシフト制にした方がよっぽど良いのではないかと思います。あるいは、神経内科医の年収を2000万円くらいにするとか(ただし現実的ではありませんが)。

ただ、神経内科には確かに将来性や発展性が見込まれる部分があり、合う方には非常に魅力的な診療科だと思います。

次の機会では、「神経内科専門医になってよかった理由」についてもいずれ記したいと思います。

Ataru Minami

ABOUT ME
Ataru Minami
Ataru Minami
内科医
現在市中の慢性期病院で内科医として働いております。ここに至るまで、様々な失敗をしてきました。そして今後に向けていろんな挑戦を企てています。そんな私の失敗と挑戦がみなさんのお役に立ててばと思います。
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